シリーズ杜の響きvol.25
奥村愛×古川展生×塩入俊哉
『旋律の饗宴』7.12.fri@杜のホールはしもと
PROGRAM
1st
愛のあいさつ Op12:エルガー
6つのルーマニア民族舞曲 Sz.56:バルトーク
ラヴェンダーの咲く庭で:ヘス 加藤昌則 奥村 愛 × 塩入俊哉
ブラック・バカラ:塩入俊哉 奥村愛×塩入俊哉
無伴奏チェロ組曲第1番ト長調BMV1007よりプレリュード:J.S.バッハ 古川展生Solo
おくりびと:久石譲 古川展生×塩入俊哉
ブエノスアイレスの冬:A.ピアソラ

2nd
Onda Nueve:A.ピアソラ
フーガと神秘:A.ピアソラ
ミケランジェロ’70:A.ピアソラ
エチュード ホ長調 別れの曲 Op10-3:ショパン 塩入俊哉Solo
約束:塩入俊哉 
ピアノ三重奏曲ヘ長調 Hob.XV-2:ハイドン
ピアノ三重奏曲ニ短調 Op120 第二楽章:フォーレ
リベルタンゴ:A.ピアソラ

アンコール
アヴェ・マリア:カッチーニ
※敬称略

書きすぎた感がf^_^; それなのに拍手をありがとうございます(大嬉)m(_ _)m

 
”杜のホールはしもと”は私、二度目でございまする。今回余裕の到着にて会場を見渡せば木の肌、樹に囲まれた音響よさげなホールであることにほっこりあたたかな気も生まれていると感じていました。プログラムに記された曲名と、曲目解説を読み切らないうちに(後日読ませていただきました)ステージと客席が明るめであり、あぁ今回は生音がダイレクトに届くクラシック色濃いコンサートであると実感でき息づく気を待ちました。
愛のあいさつ
ピアノの先導に添うようにエルガーが歌いながらor鼻歌で作っちゃったんじゃないのかしらと思うほど、可愛らしく嬉しさがこみ上げてくるヴァイオリンの伸びやかな透る音色にうっとり。すっと支えるピアノの伴奏も安定していて夢見心地と聴いていますれば、チェロがちょっかいを出す?あはっ大きなウソよ(笑)さりげない絶妙な音色でしたので。言葉をかわす甘い声が耳をかすめて、ドキン!思えば、この曲はチェロが加わった編成で聴いたことはなかったのかも。ヴァイオリンとチェロで楽器同士の対話を美しく響かせ、ピアノは対位な位置で纏めあげている、さぁ饗宴が始まりました。
6つのルーマニア民族舞曲 Sz.56:バルトーク
曲目解説に記されていました「西洋とも日本とも違う独特の音階なのですがなぜか親しみやすい…」なメロディが、チェロとヴァイオリンで交互に軽やかに奏でられ、掠れるヴァオリンの音色が笛のよう、と寛いでおりますれば、そうはさせないトリオ。待っていましたとばかりに超高速な踊りが舞っていきます(古川さんのCDよりも高速と思いました)大地をステップする大小の音、アグレッシブ全開で目が回りました。原曲はこれで終わりなのですが、今回はもう一曲加わっていました? 祭りのあとにびゅ〜うっと風が吹き渡る虚無感、哀愁を帯びた音色はこの曲が複雑な流れを見る物語であり、締めくくっていたと思いました。

ここからはヴァイオリンとピアノのDuo
ラヴェンダーの咲く庭でと塩入さんが愛さんの為に書き下ろされた曲ブラック・バカラ
映画音楽曲のラヴェンダーの咲く庭ではヴァイオリンのソロがどことなく物語のドキドキを予感させて、でも本メロでの愛さんの端正で美しい響きはそのままに耽美な表情が見え、細やかなパッセージの滑らかなこと。微細な緩急の呼吸がぴったり。綺麗な曲です。慌ただしい毎日に振り回され、置き忘れていく純粋な感動を呼び戻させる感覚が静かに、心が洗われました。
その呼吸はブラックバカラでも冴え渡ります。エネルギッシュな情熱がスケール大きい曲へと盛り上げる展開、ピアノの大河を流れるように形つくられた激情に埋め尽くされるほど愛さんの音色は気品高く伸びやかに広がる。どんなに強音でも力みなくクリア、スリムな音色が私は好きです。ドラマティックな余韻を慎ましく終えるラストに、愛さん=ブラック・バカラの香りが立つ幻想を体感していました。
バッハの無伴奏はもちろん古川さんのソロで。
正面を向かれ時には目を瞑り、音色に身をゆだねられ響き渡るチェロの音色。キラキラとまばゆい夏の光が零れてきて、心の奥底がふつふつと温まっていく、軽やかで堂々とした演奏に元気が沸きました…軽やかに聴こえてしまう、そのテクニックはもっちろん古川さんだからです。
そして塩入さんの伴奏でおくりびと
劇中、主人公本木さんが奏でてらした風景、私の住んでいるところと大差ないので(笑)懐かしさが真っ先に。自然観と連結し塩入さんのアレンジには人と繋がる奥ゆかしい響きに人恋しくなり、淡いロマンティックな味わいが沸くと聴いています。
一部ラストはトリオでブエノスアイレスの冬
トリオでの演奏は珍しいので必聴です。最初はヴァイオリンとチェロが深く沈着するようにピッタリ添っていきますが、序奏。奮い立つもう何ともうしましょうか、破壊力!(決して乱暴ではございませぬ)畳み込む集中力にぐいぐい巻き込まれる快感。チェロで聞き慣れているメロディをヴァイオリンが奏でたときオーロラが現れた妄想で胸がきゅんとなる。持っていかれました(笑)
冬の厳しさ、混沌の描写から沸き上がる結束な音に、春がそこに!(笑)嬉しかったこと。トリオの音色がどんなにクロスしても主な音が熱情で浮かぶ生音でのバランスに感動しきりでした。

第二部はピアソラの秘宝曲三曲ではじまりはじまり。
まずはOnda Nuebe
曲説で知りました「新しい波、ニューウエーブを意味する」と。
トリオで初めて聴かせていただいたときぶっ飛んだ秘宝曲でした。曲説にありました即興的に始まるピアノソロの始まりに身の毛もよだち(笑)チェロを叩く音、つづくめまぐるしい螺旋音符なヴァイオリンの音色に添ったり絡まるチェロ。猛暑の夏、予測できない熱さに翻弄される今を物語っていると音楽も新しい波を迎えているのですね。
フーガと神秘
「旋律と旋律が追い掛け合いながら絡まっていく音楽、きびきびした音の動きを巧みにさばく」
フーガの主題の出入りをくっきりと呈示しながらチェロの螺旋に見事に絡まっていくヴァイオリン。ピアノも明快に絡まると絶妙なバランスをもがっつりと立体で組まれ、フーガの様式から様々な音の面が交互に輝き零れてくる。アグレッシヴに攻めまくられ、典雅な趣さえも運ぶのがトリオ。
そしてミケランジェロ'70
”ふぃっ”と擦るヴァイオリンは風?鋭さに頬が切れそう。隙のない、見せない瞬間にも三人が挑発しあいそうな過激な音の連なり。スリリング。こちらは息ができませぬが、でもなんだか爽快な気分になっていました。
塩入さん曰く「特別難しくしてアレンジした」このピアソラ秘宝曲(勝手につけました)を曲を練りに練られているはずなのに、自由闊達な表現に見えて、私は心踊る爽やかな気分で魅了されました。Duoでの演奏が擦り込まれた記憶に愛さんがメロディを弾かれている今回は、古川さんがピアソラの持つ毒気と沁み入る気の側面をぐいぐいと引き出す余裕すら伺え、格別な面白さのアレンジもあったとも思いました。
ショパンの別れの曲はピアノソロで。
真ん中の超難しい(私には)ところは省いて、誰もが知っているメロデと他のエチュードを合体させたアレンジという説明がありました(幻想即興曲と合体させたかと思っていたワタクシでした(*^▽^*)ゞおほほ)補足すればアレンジしたら原曲より難しくなったと以前お話なされて居りました。CDで是非お聴きください。
全体の甘美な流れにメロディラインが鮮やかに浮かび上がっている、しっかり響かせるテクニックに意志の強さを思います。
約束塩入さんの作品
古川さんとのDuoです。安らぎに充ちた曲想の変化に色々な人たちとの約束を記憶で辿っていけば、私は笑顔だけを心に刻んできた、残っているのだと憶い浮かべています。

さぁクラシックの世界です。室内楽です。
初めてという、貴重なピアノトリオです(ハイドンのピアノトリオと申せばジプシー風が有名ですよね、この曲を取り上げるのがこのトリオらしさ)チェロは本当に伴奏。ヴァイオリンソナタの形式という古川さんのご説明がございました。
ハイドンのピアノ三重奏曲ヘ長調 Hob.XV-2
ヴァイオリンが清々しい朝を連想させる、高らかに歌い上げ、ピアノが小鳥のさえずりのように会話をかわしている。ピアノが、わぁいクラシックモード!と大喜びなワタクシ。チェロは伴奏ですがつま弾く音、ぐっと締める重低音は聞き逃しません。対象な音が立体的にホールへと響きを拡げています。
後に書きますが愛さんの擦る音色、つまびく音、その奏法も(奏者ではないですが)視覚で目に入ることもコンサートならではで一音も心を込めるとお話された古川さんの姿勢を見るのです。
ヴァイオリンソナタを聴いているような第一楽章につづき、
第二楽章はピアノが主役とも聴く、明晰なタッチで真ん丸な光の玉が転がっている、ヴァイオリンとチェロがそこへ色彩を流し込み、プリズムが光の角度で色が変わっていくような煌めきに瞬きし、明るさ満載。
第三楽章はゆったりなヴァイオリンの歌い口にひと呼吸し、解放された安堵もつかの間、ハイドンな調べが連鎖で再び繋がっていく。ユニゾンで添う音色は一音の狂いもなく、当たり前なのですがでもスゴイ。素敵な折り合いでテンポ早めなラストまでの溌剌と快活な追いかけっこにわくわくしました。
フォーレ:ピアノ三重奏曲ニ短調 Op120 第二楽章
古川さんが大好きな作曲家の一人であり、フォーレは後期では前衛的な、とっつきにくい曲が多いが選曲は塩入さん、嬉しかったと。ピアノがささやくその世界が男女の愛、最後は素敵なユニゾンになっていくとのご説明です(大まかです)
ピアノの穏やかな伴奏にヴァイオリンとチェロの調べが優雅に乗ります。古川さん解説の女性と男性でしょうね。ハイドンでは伴奏のチェロが出番。憂いの音色が深く芳醇な香りがホールへ響き渡る感覚が堪りません。
そしてヴァイオリンとチェロの伸びやかなユニゾンでも一つ一つの音を保ちながら微細に起伏を持っている揺らぎな浮遊に心ごと音波でさらわれてしまい、くらくらしました。ピアノは伴奏で、ごく自然に流れているかのようなヴァイオリンとチェロの朗々と歌うユニゾンにも頻繁な転調と半音階の動きあり、アンニュイな流れをくっきり際立たせてじわじわ攻め込んでいるよう。登り詰めて行く曲の頂点に向かってもやみくもに感情を煽ることなく、凛とコントロールするスタンスを備えた音色がピアノトリオでの対位と対象の世界をより高みへと誘うスケール大きい音楽として聴かせてくださった。う〜〜〜ん素敵!!!
クラシックの古典的形式ながらこのトリオが演奏する音の綾に、思わぬ先進性が潜んでいるのではと楽曲をより深く聴き入りました。
…Vin de Tableのトリオでラヴェルのピアノ三重奏聴きたい。月並みかな…(*^^*)ゞ
そうそう大拍手の後、愛さんが「塩入さん終わりました、よかったですね」と。塩入さんが可愛く見えたのは初めてかも(笑)おほほ。
ラストはリベルタンゴ
ピアノのイントロが、吹っ切った自由さが爆発!なくらい闊達に突き進む音色でいけ〜とばかりな合図。ヴァイオリンのきゅ〜い と擦る音がエキゾチック。メロディの美しさといったらもう愛さんそのものなのですが。古川さん余裕の表情でも、ピアソラのラストへ向かうトリオの掛け合いは皆さん頬が紅潮し(てらしたと見た←思い込み?)現代の音楽感覚溢れるテクニックと鋭利さを全面にものすごい情念のバトル(調性を保っての)で超高速駆け抜けていきました…スピード違反です。

アンコールはカッチーニのアヴェ・マリア
ヴァイオリンとチェロの流麗なイントロがバッハの調べにも聴こえて祈りの領域へまっしぐら。
ピアノのソロから チェロとヴァイオリンが奏でるメロディは祈る人の肩にそっと手を添えてくださるような優しさを聴きました。ヴィヴラートに慎ましい気が宿り、何気ない小さなモティーフにも細やかな光の当たらないところにも温かなな眼差しを注ぎ込む陰翳がありぎゅうっときました。

久々のトリオの演奏。
ソリスト各々の活動の場も演奏歴も異なっているのにテクニックに付随する音楽感性の均衡が保たれているのだろうか。保てる状態へ持っていく彼らを結びつける独特の輝きを創造的な音で構築する塩入さんのアレンジ。
トリオは、前述しましたがヴァイオリンとチェロが楽器同士の対話を美しく響かせ、ピアノは対位な位置でまとめあげている、と書きました。
塩入さんが「クラシックではヴァイオリンとチェロは易しいので、特別難しくしてアレンジした」愛さん古川さんのテクニックと感性がかきたてる想像力もしかり。楽譜に潜む音の綾の複雑精緻さを解きほぐしピアソラの三曲も他も超絶技巧的と判っても強靭なテクニックがど〜〜〜んと全面に出て難曲であると感じさせないほど涼しいお顔で弾かれる(古川さんの自信と余裕が漲る表情がカッコいい。惚れ(直し)ました)正確さに、勢いを乗せたり、優しく甘美なヴェールをふわりと掛けてみたり、茶目っ気たっぷりに遊ばせたり(遊んではいませんが、細やかなパッセージね)主題素材を流しこみ誘発させながら全体を構築してみせる、こんな解釈は他にはない。そこに息づき期待通りに生まれていく音楽を見守っているかのような姿勢と、喜びに充ちた音楽である事が、奏者の力量とアレンジャーの手腕のどちらを称賛すればよろしいのか困ってしまいますが(笑)塩入さんは両者を兼ねておりますし、そうそう演奏出来るソリストもおりませんので、トリオの面々としたく。ここにしかございません。
迫真の演奏に終われば私だけ?いいえっお客さんも疲労困憊。でもそれより生きているエネルギーが沸き幸せな気分が先行する、ただただ嬉しさが込みあげる。この幸福感こそが、奏者も一体となった演奏会に望むものだと強く思った忘れられない一夜でした。

ほんとうにお疲れさまでした。
ありがとうございました。

takako.7.14記