【侘助椿のままで】

冷たいぼた雪が一弁(ひとひら)一弁
ほわほわと早春の匂いをひそませ無音の微かな香を落とす
僅かな輝ける生命を抱かれた白い侘助花弁の如くに
貴方の面影を探す満月夜の幻想は
ざわわ心を熱する
しとやかに舞い降りるささやかな光の春

…手に取れば儚く散る侘び(わび)と知りつつ

開ききらぬ美が在るのなら 
結実みせぬこの椿ですべて包んで


新月を欲するならば
想いの一縷を音が織り込む氷結ナイフでたぐり断ち
月光が限りなく慈愛の手を差し伸べる微笑みにすがり
そのてのひらで粉々に潰してほしい
出来ぬのならば
満月の引力を己の生血で引き裂き、侘助椿を真紅に染めよう。
侘びの氷面をバリバリッ割り砕き、音も凍る深淵の水底へ沈めよう。

貴方へのたゆまぬ想いを


叶わぬのならば
いっそ闇夜へ葬ろうか 

あなたからの…
冷たい夢の名残り雪は
冷気に負けた花弁の死骸 闇をたゆとう挽歌を奏で
つたう涙をおし殺し 抜け殻だけが募りゆく

開ききらぬ美が在るのなら 
結実みせぬ侘助椿に添いたい

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